転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


57 ルディーン君って、一体どうなってるの!?



「なんだこりゃ!」

 僕とお父さんが冒険者ギルドについてその扉を開けると、とんでもない事になっていた。
 いつもなら殆ど人がいないはずのこの時間なのに、ギルドの中は床に寝かされてうめき声を上げている人や苦しみながら司祭の恰好をした女の人に励まされている人、それにギルド職員の人たちに手当てをしてもらっている人など、物凄く多くの怪我をした人たちで溢れかえっていた。

 そんな光景に僕は一瞬圧倒されたんだけど、すぐにそんな場合じゃないって気が付いた。
 だから慌てて周りの人たちのステータスを確認したんだけど、そしたら大変な事が解ったんだ。

 なんとここに寝かされている人の多くが毒に犯されていて、その上その内の何人かは早く毒を消さないとすぐに死んじゃいそうなくらい弱ってたんだ。

「たいへんだ!」

 それが解ったからにはぼーっとしてる訳にはいかない。
 とにかく僕は周りを見渡して今どの人が一番危ないかを確認、すぐさまその人のところへと駆け寄った。

「なんだ!? 子供? 坊や、こんな所に来ちゃダメだ」

 その人の近くにはギルド職員の制服を着たお兄さんがいて、僕に気が付くとそう声を掛けてきたけどそんなのに構ってる場合じゃない。
 この人は本当に一刻を争う状態だったから、そんなお兄さんの言葉を無視して僕は手をかざせる所まで近づくとすぐに体に魔力を循環させる。

「はっ! 何をやってるんですか、カールフェルトさん! 早くルディーン君を外に連れ出して! 子供にこんな光景を見せてはダ……」

 ルルモアさんの声も聞こえた気がするけど、魔法の準備ができた僕は構わず力のある言葉を放つ。

「キュア・ポイズン」

 すると僕の手の平から倒れている人に向けて白い光が注がれ、やがてそれはその人の全身へと広がっていったんだ。
 そしてその光が収まった所で再度ステータスチェック。
 すると毒はちゃんと消えていて、HPの減少も止まっていた。

 ただ、まだ死にそうな状況のままだったので念のためにキュアもかけといたんだ。
 この世界ではキュアって傷を治す魔法だけど、ドラゴン&マジック・オンラインではHPを回復する魔法だったから毒で減ったHPが戻るかもって考えたんだよね。
 そしたらちゃんとHPが回復してくれて一安心。
 ゲームの時みたいにHPが戻ったからって元気になるわけじゃないみたいだけど、とりあえずはこれでこの人は大丈夫だと思ったから僕はすぐに次の人を直さなきゃって、また移動を開始したんだ。


 ■


 何故そこにカールフェルトさんとルディーン君がいるの? あまりに絶望的な状況に少し混乱していた私はその疑問に捕らわれてしまった。
 そしてこんな危機的状況だと言うのに予想外の事が起きたせいでその状態のまま頭がフリーズしてしまい、何の判断もできない空白の時間ができてしまったのよ。
 だから私は大きなミスを犯してしまう事になる。

「たいへんだ!」

 目の前の光景に居ても立ってもいられなくなったのであろうルディーン君が一番重症の冒険者の元へと走って行くその姿を見ても、どこか物語の一場面を見ているようで私はただぼ〜っとその姿を目で追う事しかできなかった。
 しかし、そんな呆けた私の頭もギルド職員の言葉で一気に冷める事になる。

「なんだ!? 子供? 坊や、こんな所に来ちゃダメだ」

「はっ!」

 そうよ、確かあの冒険者はこの中でも一番重症で毒の回り具合から考えると多分もう助からない。
 ルディーン君は簡単な治癒魔法なら使えると言っていたから助けようと駆け寄ったのだろうけど、毒は専用の魔法じゃなければ直す事はできないもの、このままでは彼の目の前で人が死んでしまう。
 もしそうなったら心にどんな大きな傷を残す事になるか解からないわ。

「何をやってるんですか、カールフェルトさん! 早くルディーン君を外に連れ出して! 子供にこんな光景を見せてはダ……」

 私の位置からでは床に寝かされている冒険者たちが邪魔で駆け寄る事ができないから、父親であるカールフェルトさんにルディーン君を患者から遠ざけてもらおうとそう叫んだ。
 そう、叫んだんだけど、その叫びを全て口にする前に事態は思いも寄らない方向へと進んで行ったのよ。

「キュア・ポイズン」

 ……えっ、なに? 何が起こったの?
 今、目の前で何が起こっているのか、私には理解できなかった。
 だって、ルディーン君が……。

 あれ? ルディーン君は魔法で魔物を狩るって言っていたから魔法使いのはずで……あれ? 神官だったかな?
 いや、確かルディーン君は神官じゃないって彼自身が否定していたわよね? でも今キュア・ポイズンを……。

 あれぇ〜?

 私が混乱の極致にいるというのに、ルディーン君は瀕死だった冒険者にキュアまでかけて次の冒険者の元へと走ってく。
 そしてその次の冒険者も、私たちからすればもうけして助からないと思っていた人で……。

「キュア・ポイズン。キュア」

 それなのにあっさりと治療してさっさと次の冒険者の元へと走って行ってしまった。
 その光景に私の頭は大混乱、思わずルディーン君に駆け寄って何がどうなっているのか聞き出そうとした。
 うん、そうしそうになったんだけど、当のルディーン君は今も瀕死の冒険者を助ける為に走り回っているんだから、流石にそんな事に時間をとらせるわけには行かないって寸での所で気が付いたのよね。
 だから私はルディーン君では無くその父親、カールフェルトさんに話を聞くことのしたのよ。

 慎重に、ゆっくりと、寝ている冒険者に気をつけながらギルド入り口まで移動して、未だそこでぽかんとしているカールフェルトさんに声をかける。

「カールフェルトさん、これは一体どういう事なのですか?」

「え? ああ、村へ帰ると言う事で、冒険者ギルドに顔を出しただけですよ」

 う〜ん、どうやらうまく伝わらなかったみたいね。
 だから今度はきちんと解るように問いただす。

「いえ、そうではなくてルディーン君です。彼は何故キュア・ポイズンを使えるのですか!」

「へっ? あの魔法、使えたら何か変なのですか?」

 ああ、そうか。
 そう言えばカールフェルトさんは魔法について何も知らないんだっけ。

「違います! ルディーン君は魔法使いのはずですよね? そのルディーン君が何故キュア・ポイズンが使えるのかを聞いているのです」

 今度こそちゃんと質問の意図は伝わっているはず! 私はそう思っていたんだけど、カールフェルトさんはそう思っていなかったみたいで、不思議そうな顔をしながらこう答えたの。

「ルディーンが魔法使いですか? えっとそれって確かジョブとか言う奴ですよね。いえ、ルディーンは魔法使いとかいうジョブじゃないと思いますよ。どちらかと言うと戦士か狩人だと思います」

「はっ?」

 何を言っているんだ、この人は。
 だってルディーン君は魔法で獲物を獲ってきているんでしょ? それなら彼のジョブは魔法使いじゃないとおかしいじゃない。
 だって見習い魔法使いでは動物ならともかく、魔物に通用するほど強い魔法は撃てないはずなんだから。
 その事をカールフェルトさんに問い詰めると、彼は困惑しながらこんな事を言い出したのよ。

「いや、ルディーンのジョブ? は多分戦士か狩人ですよ。だって8歳の誕生日に初めて剣を持ったというのに、その瞬間から見事な扱いを見せましたからね。それに昨日も初めて森に入ったと言うのにあっと言う間に森の歩き方をマスターしましたから」

 はぁ? ルディーン君のジョブは魔法使いか神官なのよ。
 ナイフならともかく、ショートソードの扱いがそんなにうまい訳ないじゃない。

「剣? 短剣とかナイフではなくて?」

「ええ、子供だからプレゼントしたのは刃渡り40センチほどのショートソードですが、ナイフのような小さなものではありませんよ」

 そう思って聞いてみたんだけど、カールフェルトさんからはそんな答えが帰って来た。

 えっと、それってどういう事? ナイフのような小さな刃物なら扱いやすいから初めて持ったとしてもうまく扱えたと言うのも解るわ。
 でもそれがショートソードとなると話は変わる。

 ある程度の重さと長さがあるショートソードは扱いが難しく、FやEランクの冒険者の中には毎日使っているにもかかわらず中々うまく扱えるようにならなくて武器を傷めるものがいるほどなのよね。
 それにカールフェルトさんが見事な扱いを見せたと言うのなら、間違いなくルディーン君はショートソードをうまく扱えるはず、なんだよなぁ。
 だってあの村は他と違ってちょっと特殊で、魔物相手に通用する技術以外は認めない村なんですもの。
 ならばルディーン君が戦士のジョブを持っていると考えてもおかしくはないわ。

 そう考えたのも束の間、カールフェルトさんは新たな爆弾を私に落としてきた。

「それにさっきも言ったでしょ? ルディーンは初めて森に入ったと言うのにすでに熟練者かと思うほど森の中でうまく立ち回ったんですよ。魔物を狩る時には草も折らず、音も立てずに気配を消して近づいて見せたし、俺がほんの小さな動物が移動した痕跡の見つけ方を教えるとすぐに自分で別の痕跡を見つけてましたからね。剣は扱いがうまいと言うだけですから、どちらかと言うと狩人よりだと思いますよ、ルディーンは」

 森の中で獲物に気づかれないように近づくのはとても難しく、動物のかすかな痕跡を見つけるのはもっと難しい。
 そんな事は冒険者ギルドで働いているからだけじゃなく、森の中で生活するエルフである私にはよぉ〜く解っている。
 それだけにカールフェルトさんの話を聞くと、ルディーン君のジョブは狩人かそれに順ずるジョブとしか思えないのよね。
 でも。

 私は改めてギルド内に目を向ける。

「キュア・ポイズン。キュア」

 そこには元気に駆け回りながら次々と冒険者たちを治療して周るルディーン君がいるわけで。

「神官? 魔法使い? 狩人? ルディーン君、君って一体なんなのよ」

 目の前に展開するこの状況の中、何がなにやら解らず私はより一層混乱の度合いを深めて悩み、頭を抱えるしかなかった。


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
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